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2016年3月16日水曜日

1046:【日常の風景】とある朝のラッシュアワーでのひとコマの巻

ここは自宅の最寄り駅。ゆっくりと京浜東北線がホームへと滑り込んでくる。

乗車する位置はいつも通り先頭車両の中ほどにある扉、と決めている。

数年前に、西の方で速度超過による痛ましい事故が起きた時には、身の危険を感じて乗る位置を変えようと思ったこともあった。だけど、途中の乗り継ぎ駅で半数の人が降りる車両がこの先頭の1両目で、上手くいけば座席を確保できる可能性もある。

それに、そもそも会社最寄駅のホームの階段がある場所に上手い具合いに停まってくれるのが、この位置になる。だから、ここ十数年は変わらずにこの位置から乗車するようにしている。

都会を走る通勤電車なので、朝の通勤ラッシュ時には約3〜5分に1本の割合でダイヤが組まれている。そのため、乗る電車の時間は日によってまちまち。乗る電車の時間が微妙に異なるように自然に調整されているようだ。

なので、いつも決まって同じ人と乗り合わせるとか、よく見る人がいるとか、そんなことはない。というか、そもそも同じ電車にたまたま乗り合わせる人たちには、これっぽっちの興味も抱かないから、昨日と今日で同じ人がいるのかどうかも判らない。


電車がホームに停まり自動的に扉が開く。

だが、この駅で降りる人はいないらしい。

いつもなら隣の始発駅から乗せてくる乗客はそれほどいないはずで、余裕で吊革を確保できると踏んでいたのだが、今日は何だかいつもと様子が違う。

そういえば、昨日どこぞの駅で人身事故だか車両故障だか火災発生があったって、駅の構内放送で言ってたような。でも、今朝もいつものように愛用しているWalkmanでお気に入りの音楽を聴いていたので、今置かれているこの状況がよくわからない。

ビッシリと満員状態、といった訳でもなさそうだが、開いた扉付近に陣取る人たちが多く、中まで入り込むのにも一苦労しそうだ。おそらく、途中の乗り継ぎ駅で降りる人たちが、ボクの行く手を阻んでいるのだろう。

敗けられない戦いは、ここにもあるのだ。

「すみません。」

まるで心のこもってない謝罪の一言を繰り出し、強引に人を掻き分けながら車両中央へと進む。

7人掛けの長椅子はもちろん、その前にある吊革はほとんど売り切れ状態。でも、よく見ると長椅子の前に立って吊革につかまっている人の数は、明らかに7人よりも少ない。

そこで再び、伝家の宝刀。

「すみません。」

ひと1人が入るには心許ない隙間を等間隔に開けて立っている人たちに聞こえるように、声を出してアピールしてみる。

申し訳ない程度に微妙に横にズレてくれてできたその隙間に身体を滑り込ませ、何とか吊革を確保。これで今日もブログの原稿を書くことができる。とりあえず目の前にある網棚に肩から掛けていた鞄を置いて、身軽な状態になってから、さっそくいつもの作業に取り掛かる。

ふと、座席に座っている人たちに目をやる。

7人のうち約半数の人たちは朝っぱらから船を漕いで寝ている。残りの半分はスマホをいじって、何やら一生懸命画面とにらめっこ。

そういえば最近は電車の中で新聞を広げているサラリーマンも減った。週刊誌やマンガ雑誌を読む人も滅多にいない。つい最近も、都内に店舗を展開する有名な書店が倒産したというニュースを目にしたことを思い出す。中堅の取次出版も破産申告したんだっけか。新聞社の売り上げも右肩下がりみたいだし、出版不況と言われて久しいようだ。

だが、その一方で電子書籍の売り上げの伸びも鈍いと言う。みなが活字を読まなくなったということか。

だとしたら、このブログのPage Viewが伸び悩んでいることにも頷ける。決してボクの書く文章がつまらない訳ではないらしい。

そう、とかく人は己が不利な状況にあるその原因を自分以外の何かのせいにしたがる生き物なんだよ。哀しい生き物だよね。


途中の武蔵野線との乗り継ぎ駅の直前で、目の前に座るサラリーマン風のおじさんがそれまで見ていたスマホを鞄の中にしまい、急にソワソワし始める。これは、次の駅で降りるという前兆に違いない。ということは、今日は吊革だけじゃなく座席も確保できそう。ラッキーだ。こんなところで運を使い果たしている場合じゃないんだが、転がり込んだ幸運を黙って見逃す手はない。

駅で停車する直前に膝に置いた鞄に手を掛けて、おじさんが今まさに立ち上がらんとするのを見て、扉に近い方向を開けるように身体を半身にする。座っていたおじさんは、するっと隣を抜けて扉方向へと歩を進める。

目の前にある空いた座席は、その前に立っていた者にこそ次に座る権利をもたらすと、そう考えるのが普通だろう。

半身になっていた身体を正対する位置に戻し、網棚に乗せてある鞄に手を掛けて座ろうとしようとした。その次の瞬間、目の前には見知らぬ別のおっさんが座っていた。まさか右隣にいたビア樽のような体型のおっさんが目の前の座席を奪い盗るなんて、そんなことは考えてもいなかった。

いや、別に途轍もなく疲れているという訳ではない。昨晩も呑んだくれて午前様だったから、寝不足気味と言えばそうなのかも知れないが、4時間は睡眠時間を取れている。まだ週の真ん中で比較的頭はクリアーな状態をキープできてるし、疲労感が身体に澱のように溜まっているということもない。

座席に座れるのならそれに越したことはないが、座れないなら座れないで別にそれでも構わない。年齢の割には鍛えている方だとの自負もあるし。

それにしても、目の前のおっさんは見事な体型の持ち主だ。おそらくバスト・ウエスト・ヒップが全く同じサイズ。たぶんちゃんと測ったら全て129.3cmに違いない、ってドラえもんか?

いや、129.3cmなのは、身長と頭囲と胴囲だったっけか?

ま、そんなことはどうでもいいか。今はブログの原稿を書くことに集中、集中。


結局、今日も会社の最寄り駅まで座れそうもないらしい。だが、座ると良くないことが起きることもあるので、ついてないかどうかは判らない。

座ってブログの原稿執筆に夢中になっていると、没頭し過ぎて朝から電車を乗り過ごすことがたまにある。恐るべきは己の集中力。その持てる力のほんの僅かでもいいから仕事の方に役立てることができないものかと、我がことながら残念で仕方がない。

混雑した車両で座席に座っていると、今どの辺りを走っているのかが判らなくなる。扉の上の方に液晶画面が付いており次の駅を表示してくれていたりもするのだが、座席に座った状態では立っている人たちが視線を遮り、それを確認することもままならない。ハッと気がついた瞬間に首を後ろにひねり、走行中の風景や駅のホームを見て、瞬時に置かれた状況を判断しなければならないのだ。一発で自分が今いる場所を判別するのはかなり困難だ。

立ったまま吊革に掴まっていると、その視界に入る情報量は座った時のそれに比べてはるかに多い。スマホの画面から少し視線をずらすだけで、降りるまでのだいたいの残り時間を算出することも可能だ。

だから、座れなくてよかったのだ。負け惜しみじゃない。代わりに座って上を向いて大口を開けて寝ているおっさんに感謝しなければならない。どうかこのまま起きずに遠くまで乗り過ごしますようにって。


結局、ブログの原稿は全然進んでいない。

今日はいつも以上に、人間観察に時間を費やしてしまったようだ。こりゃ失敗。

以前は3,000文字くらいの短い内容が多かったので、行きと帰りで2本の原稿を書き上げることも出来たが、最近は短くても5,000文字、ひどい時には10,000文字を超えることもしばしばなので、行き帰りの乗車時間だけでは足りず、いつもの書斎のドトールで閉店ギリギリまで粘ることも多い。

ちなみに今回は一切リンクを貼ってないので、この時点でまだ3,300文字程度。まだまだいけるぞ。

そろそろ会社の最寄り駅が近づいて来た。

降りる時に慌てるのもカッコ悪いので、iPhoneをポケットにしまい、網棚の鞄に手を掛けて降りる態勢へと移行する。左右の混雑具合を観察し、どちらの方向に進んだらすんなりと扉までたどり着くことができるかしばし思案する。

今日は左だな。階段の位置から少しずれてしまうが仕方がない。

電車がホームへと差し掛かりスローダウンし始めた頃から、ゆっくりと扉に向かう。同じ駅で降りるのか、幸運にも座ることができた何人かの人たちも立ち上がりかけている。

黙っていれば、前の人が降りるのか降りないのかは自然と判るので、ここでは強引に扉の前まで進むような無粋な真似はしない。自然の流れに身を任すだけだ。

電車が完全に停止し、一斉に扉が開く。扉の近くに立つ人から徐々にホームへと降車し始める。それに続いて降りようとした時に、左斜め後ろから押される感覚があった。後ろの人も降りるみたいだ。

ボクもここで降りるから、後に続けば大丈夫のはずなんだが、後ろのおばさんはどうしてもボクよりも先に降りたいらしい。更に前方には反対側からも人が押し寄せている。

人より早く降りたって早く会社に着いてしまうだけなので、こういう場合には降りたい人に先を譲るようにしている。狭い日本の更に狭い都会の片隅の電車の中の話だ。そんなに急いでどうすんのよ。

前から来た人には先に降りるように、一旦止まって道を譲る。後ろのおばさんが舌打ちをしたような気がしたが、たぶん気のせいだろう。だが、付き合ってもらうのも悪いので、後ろのおばさんにも先を譲ることにした。これから出張か何かで、新幹線の発車時刻が迫っているのかも知れないし。

ようやくホームに降り立つボクの前には、先を譲った人たちがいる。そんなに混んでもいない階段へと続くホームの通路を、それまでの勢いはどこへやら、かなりゆっくりとしたペースで歩いている。

どうやら人ってのは、当初の目的を達成してしまうと一気に気が緩むようだ。彼ら彼女らは電車から降りることが唯一の目的で、それを達成した今はまるで腑抜けたゾンビのような、そんなスローモーションな状態にある。いや、それじゃあゾンビに失礼か。

先を急いでいるんじゃなかったの?

それとも、ホームに降りたら牛歩戦術にでも作戦変更したのか?

ま、いいか。

ボクはボクなりのペースをキープしつつ、すぐ脇の空いたスペースへと歩を進め、彼らを置き去りにする。そして、大して気分も良くないのに、階段を小気味良いリズムで降りる。

ブログ原稿のことは一旦頭の隅に追いやり、自動改札を抜けた瞬間に仕事モードに切り替えよう。

さて、今日も忙しいぞ。年度末進行の仕事が山のように待っている。


というのが、ボクの日常。

だいたいいつも、こんな感じ。

今回の話には、特にオチはない。

あしからず。

(だいたい5,000文字)

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