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2013年9月27日金曜日

618:ドラマ『半沢直樹』の主人公みたいな人の話の巻〜前編〜

僕の心はホッサマグナ!キミのハートも熱くするっ!

皆さん、はじめまして!煮えたぎ郎と申します。以後、お見知り置き下さい。

今回は、さいたまの孤高のωブロガーこと、ひろさの(@Hirosano)さんのご厚意により、この『真☆煩悩の赴くままに』に寄稿させていただくことになりました。

あの人は友達が少ないし、「孤高の...」とか言っちゃってるから、僕みたいなもんがここに寄稿してイイものかどうか迷いに迷ったんですが、つい先日、ひろさのさんと居酒屋で飲みながら話したウチの会社であった話が面白いってことで、半ば強引に無理矢理ここでご披露させていただく運びとなりました。

まぁ、半沢直樹みたいな振る舞いを会社員として実践する奴ってあまりいないと思ってたんですが、その人はかなり強者だったんで、そんな話をさせていただければと思います。

お目汚しになるかと思いますが、お時間のある時にでも読んでみていただけると幸いです。


突然のオーダー

本沢直樹は1992年入社の、いわゆるバブル入社組の一人であった。

若い頃から数字に強い経理マンとして頭角を現し、税法や商法・会社法などの専門知識も入社後に独学で修めた優秀な担当者であった。

彼に仕事を任せれば確実に結果が出るとの評判で、同期の誰よりも早く30代半ばにして課長職についており、同世代のバブル組の中でも一歩抜きん出た出世頭と目されている。

下の者に対しては寛大に振る舞い、後輩の面倒見もよい。そんなやり手である本沢に心酔する若手も多く、周囲からの人望はかなり厚かった。

ただ、上の者や横並びの課長連中に対する目は厳しく、業務に対する理解が乏しい者や、部下の管理すらろくにこなせぬなど、管理職という立場に胡座をかき、会社のお荷物的存在になり下がる連中を躊躇せずに「クズ」と呼ぶ。

プレイヤーとしても使えず、お手盛りで役職に就いたはいいが、部下の業務や労務管理すらまともにできない先輩管理職は徹底的に断罪する。そんな余計な衝突を疎まない好戦的な態度に関して、会社上層部からの評価は最近はあまり芳しくないようだ。

ある日、取締役でもある部長から隣の課の課長Aが呼び出された。彼は何でも屋で、上から頼まれた仕事は文句も言わずにこなす、部長や上層部の便利屋として重宝されていた。

ただし、実態は彼自身が一人で全てをこなしているわけではなく、部下や周囲を巻き込んで上からのオーダーに対処しレポートを作成させ、その結果を報告するだけで、自ら汗水垂らして努力することはない。

もちろん、上司には自らの成果だという面持ちで報告しているのだろう。人の手柄を掻っ攫っうことだけは素早く華麗に熟す実力があるらしい。

そんなA課長は同僚・部下からの人望は薄く、影で「運び屋」とか「トンビ」と呼ばれていることにも気づいていないらしい。なんとも幸せな男であった。

そんなA課長が呼び出されたとあって、本沢の心はざわついた。

どうせまたロクでもない仕事を部長から押し付けられて戻ってくるに決まっている。ホイホイとオーダーを持ち帰ってきたはイイが自分では何もできず、最後は俺のところに泣きついてくるに違いない。

「面倒事がまた一つ増えるのか...」と独り言をつぶやく本沢であった。

案の定、A課長が持ち帰って来た案件は、仕事とすら呼べない代物であった。

そのオーダーは、第一線は退いたものの、まだまだ社内に対する影響力が衰えない、先代の社長=会長からのものであった。

持ち帰ったA課長も少しは自分で努力する素振りを見せればいいのだが、今回は自席に着くことなく、本沢の元へ直行して来たからたまらない。

「本沢、ちょっといいか?」

A課長は確かに本沢よりも年次は上だが、周囲に部下もいる状況で、同格の課長に対する呼びかけ方ではない。

心の中でそう思ったのだが、どんな厄介ごとを持ち帰って来たのか、興味が湧いた本沢は素直に従った。

空いている会議室へと導かれたところから、密談でないと話せない内容らしいと容易に想像できた。

「いやぁ参ったよ。専門外のことを聞かれても即答なんか出来やしないのにさ。」

(言い訳はいいから早く本題に入れよ。)

と言いたいところをグッと我慢し、本沢は頷いただけで先を促した。

「部長が取締役会議の後に会長に呼び止められて、とんでもないオーダーを持ち帰って来ちゃってさ。」

(それを更にここまで持ち帰って来たのは誰なんだ?上司が腰巾着ならその部下は小判鮫か?)

心の中では毒づく本沢だったが、表情は終始薄笑いを浮かべてただただ黙って話を聞いていた。

「なんか、会長の御子息が今度御結婚なさるらしくてさ。お祝いに郊外に一戸建ての家を建ててやるらしいんだ。なんとも羨ましい話だよな。」

そのバカ息子なら知っている。親父のコネで入社した実力も学歴も大したことのない奴だ。そんな自分の境遇を慮り、殊勝な態度で業務に真面目に取り組むかと思いきや、その逆だったらしい。親の権威を振りかざし、傲慢さを隠しもせずに横柄な態度に終始する。態度はデカいくせに仕事はからっきしという上々の評判のあの愚息のことらしい。

「それでな、『そういうのは贈与税とか相続税とかに関係してて、確か非課税の上限額が決まってるんじゃないか?』と部長も聞かれて困ってるらしくてさ。」

そりゃそうだ。そんなのはあくまでもプライベートの範疇、単なる世間話に過ぎないだろう。バカ息子に家を建ててやる金があるなら、自分の金で税理士にでも相談すればよかろう。

「で、ウチは経理部だから税金とかに詳しい筈だってことで、調べるように言われちゃったみたいなんだよねぇ。」

「はぁ?そりゃあ法人税とか消費税やらの話に触れない日はないですが、相続税・贈与税なんてのはその人自身がそれらに関わったことがなければ、詳しい人なんていないんじゃ...。いくらウチが経理部だからってねぇ?」

本沢はだんだんアホらしくなってきたので、仕事に戻ろうという素振りを見せたのだが、A課長のお喋りは止まらない。

「まぁそういいなさんな。いくら取締役とは言え部長も上には逆らえないし、少しでも点数を稼いでおきたいんだろ?」

こちらが拒絶反応を示しているのに話を続けるということは...本沢の危機意識は更に高まった。

「ところで本沢課長、キミは各方面の知識に明るいよな?相続税や贈与税なんてのも基礎的なことは既に知ってるんじゃないか?」

本沢の両親はまだ健在だし、妻の両親もまだ若いからピンピンしてる。それにこう言っては何だが、年金暮らしの親に相続や贈与できるほどの資産があるとは思えず、遺産などあてにする筈もなかった。

「いや、会社の業務に必要のない法律には疎い方でして、その方面に関してはAさんと同じレベルですよ。」

バカにされたと勘違いしたのか、A課長も引く気はないらしく、強引にこのくだらない案件を本沢に押し付けようと躍起になってくる。

能力の低い者に限って自己評価とプライドだけは高いのだから始末に負えない。

「いやいや、本沢くんほどの優秀な人材であれば、このくらいのことは少し調べれば簡単に説明出来るんじゃないか?それに、君が窓口になってる顧問税理士の先生に聞けば一発で解決だろう?」

確かに本沢が調べればすぐにでも解決する簡単な内容だとは思う。しかも、こんな基礎的な税法上の取り扱いを税理士に相談するなんてことは憚られるし、そもそもが会社の税務とは関係のない話を顧問税理士に相談するわけにはいかない。

「そりゃそうですが...。でも、ならなんで部長は私ではなくAさんにこの話を持っていったんでしょうね?」

(お前もたまにはポイント稼いでおいた方がいいんじゃないか?)と暗に仄めかしてみたのだが、それも通じない相手であることを本沢は知っていた。

そもそも周囲の課長連中はこのAのことを影では「ファンタジスタ」とも呼んでいる。

キラーパスやスルーパスの名手と言われ、他人にパスは出しても自ら得点を取りに行くような実力はない。つまり、仕事を他人に振ることだけは得意だが、業務を熟し成果を上げるストライカーとしての才覚には恵まれてない、それはそれは可哀想な御仁なのである。

「そりゃあ僕は部長に気に入られてるからなぁ。」

どこまで行ってもポジティブ。なんと幸せな男なのだろうか。本沢は隠しもせず飽きれた顔を見せた。

「たまには本沢くんにもポイントを稼ぐチャンスを回そうと思ってさ。ありがたいだろ?」

軽く殺意を覚えた本沢であったが、これ以上こいつに構っても時間の無駄だと思い直し、この会長のプライベート案件については渋々引き受けることにした。

「あ、それとな。会長には部長自らがご説明に上がるらしいから、文書に纏めておいてくれってさ。出来たら僕もチェックするから、声を掛けてくれるかな?」

恐らく、本沢から取り上げたレポートを自らの手柄として部長に報告するのだろう。

このくだらない連中に付き合わねばならない己の不遇を嘆くくらいしか、本沢の気力は残っていなかった。あまりにもバカバカしい話なので、まともに相手をするだけ無駄だと悟ったのであろう。

ただし、この本沢という男、ただでは転ばない男である。

心の中でそっと「今に見ていろ、倍返しだっ!」とつぶやいたことは誰も知らない。

(つづく)

※この話は実話に基づく限りなくノンフィクションに近いフィクションです。

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