まいどどうも、吹きす三郎です!
あ、違った。前回も登場致しました煮えたぎ郎でした。テヘヘッ(*゚ー゚)>
ここ『真☆煩悩の赴くままに』の主宰者である「さいたまの孤高のωブロガー」ことひろさの(@Hirosano)さんのご厚意で、くだらない話を寄稿させていただいてるチンケな野郎でございます。
前回よりお送りしている小噺がこちらになるんですが、
真☆煩悩の赴くままに: 618:ドラマ『半沢直樹』の主人公みたいな人の話の巻〜前編〜
こちらが前回お送りした前編です。
提出した原稿を見たひろさのさんからは、メールで一言「なげーよ。」と返って来まして、本来は一回限りの寄稿であったはずが、前後編の分割方式へと変貌を遂げることになりました。ホントに
「余計な蛇足が多いこのブログの主宰者に言われたかね〜よ」と僕が思ったかどうだかはトップシークレットなんですが、せっかくの機会を頂戴した恩人の仰ることですので、今回だけは素直に従い、原稿を再編集させていただいております。
そんな物語も今回が後編になりまして、一応の完結を迎えることになります。
それでは、これより後編をお届けしたいと思います。
どうぞ、ご堪能(?)下さい。
調査〜そして驚愕の事実
自席にもどった本沢は、パソコンを操作してブラウザーを起ち上げた。
本沢にとっても専門外となる相続や贈与のことを分厚い法律書で時間を掛けて調べる気にもならず、手間を掛けずにネットで調べようという魂胆だった。
こういう箸にも棒にもかからない厄介ごとはサッサと終わらせるに限る、いうことだ。
検索のキーワードは「生前贈与」と「住宅取得」。源泉所得税の「住宅取得等特別控除申請」があるように、税法上のことを調べる上では「住宅購入」とするよりも「住宅取得」とする方が妥当だと、本沢は考えていた。
数年前、生前贈与に関する特別措置が行われるという記事が新聞に掲載されていた記憶がある。それも親から子へと住宅購入資金を贈与するケースを増やし、いわゆるハウスメーカーの窮地を救うというものではなかったか。アメリカでリーマンショックがあったというのに、不動産関係に対する手厚い保護を緩めないのか?と少しばかり憤りを覚えた記憶だった。
Googleでの検索結果が瞬時にディスプレーに表示された。
はなから国税庁のタックスアンサーは無視することに決めている。国税庁が公開している情報なので信憑性は高く確実なのだが、知りたいことを調べるのには不向きだからだ。
ただでさえ小難しい税金の話を更に解りにくくする意図が頭のいいお役人にはあるのではないか?と疑いたくなるくらい、難解な法律の条文が並べ立てられたページを参考にレポートを纏めても、ズブの素人である会長とその放蕩息子には理解出来まい、そう思ったからだ。
生前贈与による住宅購入資金の話なので、その恩恵を授かる筈のハウスメーカーもしくはディベロッパーのホームページに解りやすい内容が紹介されているだろうという本沢の推理は見事に的中した。
このホームページによると、こういうことらしい。
通常の生前贈与に関する基礎控除額は年間110万円である事は本沢も知っていたが、こと住宅購入資金に関しては非課税限度額は高額になっており、更に平成24年から26年までの3年間に限り特例措置が設けられているとのことだ。
まずは相続時精算課税制度を利用すれば、生前贈与の非課税限度額が一気に2,500万円まで増えるという。
更に、3年間限定の住宅取得等資金の非課税制度も併用でき、平成25年現在では最高で1,200万円を上乗せできるらしい。
「しめて3,700万円か...。金持ちの息子ってのはズルいな(笑)」
持たざる者の単なる嫉妬ではあったが、単純に羨ましいと本沢は苦笑いしていた。
それにも増して驚いたのは、本件を調べるのにものの5分とかからなかった事実であった。
いや、当初からこの程度の調べ物であれば税理士先生にお伺いを立てるのは恥と感じていたので、簡単に終わるだろうことは予測していた。驚いたのはそこではない。
何に驚いたのかと言えば、こんな簡単な作業すらできないA課長や部長、会長、それに一番の嫉妬の対象となるバカ息子の無能さに驚愕した、と言った方が的確かもしれない。
今やインターネットで検索してある程度のことは簡単に調べることが出来る。そんな事は新入社員はおろか、就職前の学生ですら知っている。
直ちに結論に辿り着くことはなかったとしても、検索に使うキーワードを思案し検索を何回か繰り返せば、ひと昔前とは比較にならないほど簡単に結論に辿り着くことができるはずなのだ。
その一手間を惜しんでいるのか、そんな簡単なことすらせずに高みから見下ろすだけで作業を人に押し付ける、その傲慢さが実に腹立たしい。
しかも、その内容は完全に業務とは関係のない、プライベートの案件だ。会社に持ち込むべきものではないし、それに部下を使うべきものでもない。
(どいつもこいつも感覚が麻痺してやがる。)
そんな常識すらない連中だから、少しばかり知恵を使えば調べるのは容易なことだという単純な発想すら出来ないのかもしれない。そう思えば怒りは憐れみへと変わり、レポート作成作業に移る気力も湧くというものだ。
それでも真面目にレポートを作る気にはなれなかった本沢は、先ほどのホームページに書いてある内容をコピー&ペーストを駆使してレポートを作り始めた。極力手間を掛けずに、でもバカにも解りやすく。本沢はものの数分で、A4用紙1枚ほどに体裁の整った文書を作成した。
これをプリントアウトしA課長に渡せば、奴は自分の印を押して部長のところにすっ飛んで行くに違いない。
(奴にこのままポイントを稼がせるのも面白くない...。) そう思った本沢は、印刷する前に数回キーボードを叩いて追記した後に、両面印刷を指示した。
プリンターから吐き出される書類を手に、本沢は早速A課長の席へと向かう事にする。
こんなくだらない案件からはとっとと解放されたい一心だった。
「Aさん、先ほどのヤツ出来ましたよ。」
印刷したばかりのレポートを片手にわざわざ席まで届けに来た本沢を見て、A課長は驚いた顔をしていた。
会議室で別れてからまだ15分も経っていないというのに、専門でもない分野の調査が終わるはずがない...という顔をしたA課長を見て、本沢は薄ら笑いを浮かべた顔で続けた。
「先ほどのオーダー、意外と簡単でした。調べてみたらなんて事はない、税理士の先生に連絡する必要すらありませんでしたよ。」
受け取ったA課長は、一通りレポートに目を通してから、席の横に立っている本沢を見上げた。
「ちゃんと調べたんだよ......な?」
自尊心だけじゃなく、一丁前に猜疑心や警戒心も持ち合わせているA課長は、疑いの目を本沢に向けてきた。レポートを一読しただけでは、その内容の真贋を見分ける事が出来ないらしい。
「当たり前じゃないですか。ちゃんと複数に確認を取りましたよ。税法上の話ですが、不動産関係のサイトなんかにもこの手の情報は載ってますからね。」
その一言で安心したのか、A課長は自分の書類受けにレポートを入れ、
「僕の方でも一応確認してから、部長に報告しておくよ。その方がいいだろう。ありがとう、助かったよ。」
と、この件はここで終わりと言わんばかりに席を立った。
案の定、自分の手柄として部長に報告する気満々のようだ。
本沢もこれ以上相手にするつもりもないので、
「じゃあ、後はよろしくお願いします。」とだけ言うと、踵を返して喫煙ルームへと足を進めた。
ほとんどがコピーした文章なので、ろくにチェックもしていないが、誤字脱字が多少あっても構わない。どうせA課長が作ったことになるであろう文書なので、ミスが一切ない方がおかしい。
タバコをふかしながら、本沢はこれからの成り行きを想像してみた。
ヤツはあのレポートをろくに読みもせず自分の認印を押して、いの一番で部長にそのまま提出するに違いない。しかもコピーも取らずにだ。
恐らく何も気づかないまま、レポートとして部長経由で会長にあの文書を手渡すつもりだろう。いや、狡い自己アピールだけは得意なA課長のことだ、ひょっとしたら部長のお供として会長に直接説明に伺うかもしれない。
吸殻を捨てて自席に戻った本沢の目に、部長席の横に突っ立ち、何やら一生懸命説明するA課長の姿が目に入った。
その後、A課長と取締役経理部長は、二人連れ立って会長の待つ役員室へと出向いて行ったようだ。
10分後に帰ってきた時のA課長の表情も満更でもない様子だった。
首尾は上々、自分の株が上がったとでも思っていそうなニヤついたその顔を見て、本沢の顔にも不敵な笑みが浮かんだ。
その後、この案件が社内で再び話されることはなかった。
「おい、例の件、経理の連中に聞いておいたぞ。」
その夜、都内の高級住宅街に構えた大邸宅に戻った会長は、帰宅早々に結婚を控えた息子を自室に呼び出し、先ほど経理部長から報告のあったレポートを手渡した。
レポートは経理部長経由になっていたが、実際には共だって説明に訪れたAという課長が作成したものだった。書類の作成者としての氏名と押印がしてあった。
「さすが、パパの威光は凄いね。取締役経理部長ですらすぐに動かして、こんなに早く調べさせちゃうんだから。」
住宅購入資金を少しでも多く親から搾り取ろうと精一杯のおべっかを使う息子を見て、一言釘を刺してやろうと会長は思った。
「まぁな。そんな事より3,000万円以上は出してやれそうだが、上限はそこに書いてある非課税限度額までだぞ。それを超える額は自分でローンでも組んで、真面目に仕事して自分で返すんだ。これ以上お前を甘やかし過ぎるのも良くないからな。」
褒め称えたのに攻撃の矛先が自分に向いてきたのを疎ましく思ったのか、息子は憮然とした表情で言い返した。
「わかってるよ。これまでだって、ちゃんと仕事してるじゃないか。パパの息子ってだけで社内で苦労する僕の身にもなってよね。」
目を合わせず、受け取った書類を見ながらいい加減に返答していた息子は、気持ちの持って行きどころに困ったのか、無造作に書類を裏返しにしてテーブルを置き、そそくさと部屋から立ち去ろうとした。
その時だった。
「んっ?!なんだこれ?」
何気なく書類の裏面に目をやった息子は、そこに書かれた文字に気がついた。
「あぁ、ウチの会社も経費削減でうるさいからな。印刷ミスした紙でも使ったんだろう。」
ちょっとした印刷ミスでも紙を無駄にしないように、企業機密や個人情報が書かれていない紙を社内専用の書類に再利用する努力は、たいがいの企業では普通に行われていることだ。
経理部長が届けた書類の裏面にも、片隅に訳のわからないアルファベットの文字が少しだけ印字された跡があることを、会長も知っていた。
「...いや、これは違うよ、パパ。」
まだ若い二十代の息子には、そのアルファベットが何を意味しているのかはすぐに解った。
「パパ...これ、経理部の誰が作ったの?」
顔を紅潮させた息子は父親である会長を振り返ることもなく、書類を見つめたまま尋ねた。
「ん?そこに書いてある経理のAっていう課長のはずだが...?」
息子の目は裏面のただ一点を凝視していた。レポートの裏面はほぼ一面が白紙の状態ではあったが、左下の片隅にアルファベットが5文字だけ印字してあった。
そこには『ggrks』と書いてあった。
(おわり)
※この話は実話に基づく限りなくノンフィクションに近いフィクションで、一部については想像力をフル動員して執筆しております。
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